ストレイン・カウンターストレイン(SCS)の原理(真野説)その2

 

 

 前回はSCSの本に出ている症例を使って、私なりにSCSの原理を説明


してみました。

SCSの治療の際にはいくつかの、守らなければいけない原則があります。

今回は、それらを一つづつ取り上げて私なりの説明をしていきたいと

思います。



1、SCSの治療では、圧痛のある筋肉を最大限に短縮させる。

  骨の場合は圧痛が無くなるポイントまで骨を動かす。



説明  

これは、筋肉の場合は最大限に短縮させることで腱やその周囲の結合組織を

緩めて、間質液の流れによって沈着したタンパク質を洗い流していると

私は考えています。

また骨の場合は、主に靭帯や関節包などに作用させて同じように沈着物を

除去していると考えられます。




2、SCSの治療では90秒間待たなければならない。肋骨の場合は

  120秒間待つのが望ましい。


説明   

これは、間質液の流れによって沈着物を洗い流すためには概ね90秒は

必要だということでしょう。
     
ですから、症状の重い患者の場合は90秒間の1回の治療では痛みが

取りきれず、沈着物が無くなるまで数回の治療が必要となってくるので

しょう。

肋骨に関しては比較的体液の流れが少ない部分なので他の場所よりも時間が

かかるのだと思います。




3、SCSの治療姿位から、元の状態に戻すときに患者は力を入れては

  いけない。力を入れてしまうと痛みが取れない。


説明  

この現象が、一番私を悩ませました。

これだけを読むとやはり何らかの神経的な機能障害が物理的な沈着物の

他にも存在するのではないかと思ってしまいます。

いろいろと調べた結果、これでうまく説明できるのではないかという記述を

ガイトン臨床生理学第9版の698ページに見つけましたので、その部分を

書きたいと思います。





「ゴルジ腱反射が筋線維の収縮力を均等化する役割」


ゴルジ腱反射のもう一つの役割と考えられているものに、別々の筋線維束の

張力を均等にするという働きがある。

過度の張力を出している筋線維は反射によって抑制し、張力の低い筋線維は

反射抑制をかけないことで興奮させる。

これは筋への負担を平等に拡げることで、ある領域の特定の筋が荷重な負担

により損傷されるのを防いでいる。





このゴルジ腱器官の反射を使って患者が力を入れてはいけない理由を説明

したいと思います。

SCSの治療姿位を90秒間続けた時点では、まだ完全には沈着物が取り

切れていないのだと思います。

そのために、患者が自分で力を入れてしまうと問題のある部分の筋紡錘の

張力だけが、高まって結局その部分の筋線維の過緊張が維持されてしまい

圧痛が取り除けないということになります。

しかし、患者が力を入れない状態で術者がゆっくりと戻すと問題のある線維

の筋紡錘に刺激を与えずに、筋線維を伸ばすことができます。

すると、次に上記のようなゴルジ腱器官の反射作用が働き、過度の張力を

出している筋線維は抑制し、張力の低い筋線維は反射抑制をかけないこと

で興奮させる。

その結果、圧痛は発生せずに残っていた沈着物も普段の生活のなかで徐々に

取り除かれてしまうのではないか、というのが私の推測です。


いかがでしょうか?

かなり矛盾なく説明できていると自分では思っているのですが。

ところで、以前トーマス・クロウDOの靭帯性関節ストレイン(LAS)

のセミナーを受けたときにトーマス・クロウDOは


「ジョーンズDOは触診の能力が低かったので90秒間も待たなければ

 いけなかった。

 私なら、筋肉が緩むのがわかるので、そんなに長く待つ必要はない。」


と言っていました。

しかし、私はジョーンズDOは触診の能力が低かったから90秒間待って

いたのではないと思っています。

たしかに筋肉を他動的に縮めてあげれば、筋紡錘の反射により筋肉は

90秒も待たなくても弛緩します。

ただ、そこで元に戻したのでは本当の意味でのリリースは起こせないと

思います。

ジョーンズDOが90秒間待ったのは、何度も何度も試してみて、

きちんと問題を起こしている筋肉の過緊張を取り除くには最低でも

90秒は必要だという自身の経験からきているのでしょう。

最初にジョーンズDOがこの現象に遭遇した時の、腰痛患者のことを

考えてみてください。

約20分間、楽な姿勢を取った後に患者はジョーンズDOの助けを借りた

としても、おそらく基本的には自分の力で元の姿勢に戻ったはずです。

しかし、痛みはもう出ませんでした。

つまり、完全に沈着物が取り除かれるくらいに十分な時間をかけて

あげれば、患者は自分の力を使って元に戻っても、もう痛みは

発生しないということではないでしょうか。