ストレイン・カウンターストレイン(SCS)の原理(真野説)

 

前回は、SCSに対するローレンス・ジョーンズDOの説明を書きました。

ジョーンズDOは、やはり他のテクニックの一般的な説明と同じように

圧痛点は神経系の機能障害で、器質的なものではないと言っています。

では、SCSを私のいつもの腱周囲に沈着したタンパク質で説明しようと

すると、どうなるか試してみたいと思います。

ジョーンズDOは非常に詳細な観察をしていて、それらを一つ一つ矛盾なく

説明するにはどうしたらよいかと、かなり苦労しました。

あくまでも推測にすぎない部分もありますが、なんとか矛盾なく説明できて

いるのではないかと思います。

ではジョーンズDOが書いた、SCSの著書の中から症例の一つを例に

挙げて、説明していきたいと思います。



症例1

患者は仰向けで、右腕を椅子の端から垂らし長椅子で眠っていた。

すると電話がなり、とっさに右手で受話器を取ったが電話で話している

うちに右の上腕二頭筋が痛みはじめた。

その後も肘を曲げるたびに痛み、力を入れるとひどく痛む。

そのうち、上腕二頭筋が実際にひどく痩せてきた。

ジョーンズDOのところに患者が来たのは、それから2年後のことである。

触診すると上腕二頭筋には圧痛がないが、肘頭のわきに鋭い圧痛点がある

(これは上腕三頭筋の固有受容器が過敏になっている証拠。)

患者の上腕三頭筋は過伸展されたことは一度もない。

しかし、長時間たるんでいるところを、急に引き伸ばされたことがある。

患者は上腕二頭筋が痛いというが、ストレインがあることを示す圧痛点は

上腕三頭筋に出ていたのである。

ジョーンズDOはSCSで上腕三頭筋の治療を数回行い、完治して再発も

していない。




これがSCSの本で症例1として載っていた内容です。

では、私なりの考え方で順を追って、その時の状況と私なりの説明文を

書いていきたいと思います。




状況1、  たらしていた右腕を、急激に曲げた。

説明1、  この時に、たるんでいた上腕三頭筋が急激に伸ばされたために、

      上腕三頭筋の筋付着部に急激な力が加わった。

      そのため、以前に「炎症とは(仮説)(2)」で書いたような

      状態になり、上腕三頭筋の三つの頭(長頭、内側頭、外側頭)

      の腱の力が一番集中する、肘頭の部分に微細な損傷が起き、

      その部分にタンパク質などが沈着しはじめた。

      その結果、上腕三頭筋の筋トーヌスは上昇し、過緊張状態となる。




状況2、  上腕二頭筋が肘を曲げるたびに痛み、力を入れるとひどく痛む。

説明2、  上腕三頭筋の過緊張状態がつづいているため、肘を曲げると

      肘関節がロックされてずれ、尺骨鉤状突起が上腕骨の鉤突窩に

      正常な位置で、はまらないために知覚受容器が刺激されて痛み

      を発する。

      患者が二頭筋が痛むと言っているのは、実は関節の部分が

      痛みを発しているのではないかという推測です。




状況3、  上腕二頭筋がひどく痩せてきた。

説明3、  上腕三頭筋の過緊張が持続しているということは、三頭筋の

      拮抗筋である、二頭筋は相反抑制によって弛緩しつづけている

      ことになる。

      その結果、時間の経過とともに廃用性の委縮が起き始めた。




状況3、  ストレインを示す圧痛点は上腕三頭筋に出ていた。

説明3、  最初に肘を急激に曲げたときに、上腕三頭筋にストレインが

      起き、肘頭の三頭筋付着部にタンパク質が蓄積したために

      その部分を押すと圧痛が発生した。




状況4、  SCSで上腕三頭筋の治療(上腕三頭筋を最大限にたるませる)

      ことにより、痛みは取れて数回の治療で再発もない。

説明4、  上腕三頭筋を最大限にたるませることにより、肘頭部分の

      体液循環を促進し、腱周囲に沈着したタンパク質を洗い流した。

      これにより三頭筋の圧痛もなくなり、三頭筋の過緊張もなくなる

      ことにより、肘を曲げる際の鉤状突起のロックも取れて上腕骨と

      尺骨の位置関係が正常に戻り、前面(二頭筋側)の痛みも

      なくなる。





以上がこの症例に対する、私なりの説明です。

ところでSCSにはいろいろな注意するべき点(例えば戻すときに患者は力を

入れてはいけない)があります。

次回はこれらの注意点について、それぞれ考えてみたいと思います。