創造の病
フランスの精神科医、精神医学史家アンリ・F・エレンベルガー
(フランス語読みだとエランベルジェ)(1905~1983)は膨大な資料を
元にして「無意識の発見-力動精神医学発達史(上、下)」という大著
を書き上げました。
その中で彼は「創造の病(creative illness)」という概念を述べています。
これはC・G・ユングの言うところの「中年の危機(Midlife crisis)」
あるいは「夜の海の航海(Night-sea journey)」と同じようなものと
考えられます。
ではエレンベルガーの著書から「創造の病」に関する部分を紹介します。
創造の病とは、ある観念に激しく没頭し、ある真理を求める時期に
続いて起こるものである。
それは、抑鬱状態、神経症、心身症、果てはまた精神病という形を
とりうる一種の多形的な病である。
病状が何であれ、それは当人にとっては生死の境をさまようとまでは
ならないにしても非常に苦しいものと感じられ、そして軽快したかと
思うと悪化するという二つの時期が交代するものである。
創造の病の期間中、その当人は自分の頭を占めている関心の導きの糸を
失うことは決してない。
創造の病が正常な専門職の活動や、正常な家庭生活と両立していることも
少なくない。
しかし、よしんば当人が社会活動を継続しえているとしても、当人は
全くといっても良いほど、自己自身に没頭しているものである。
その人は完全な孤立感に悩むものである。
たとえ、この試練を通り抜ける間、自分を導いてくれる導師のような人が
あったとしてもである。(シャーマンの徒弟とその師の関係のように。)
病気の終結は急速で爽快な一時期が目印となることが少なくない。
当人は、人格に永久的な変化を起こし、そして自分は偉大な真理
あるいは新しい一個の精神世界を発見したという確信を携えて、
この試練のるつぼの中から浮かび上がってくる。
これはフロイト、ユング他多くの人達が経験しているものです。
恐らく世の中には、周囲は気づいていなくても「創造の病」の真っ只中に
いる人達が数多くいると思います。
私は、そういう人達に伝えたいです。出口はかならず見つかると。