結合組織内へのタンパク質蓄積を証明する方法(5)

 

前回、前々回と2回続けてルドルフ・シェーンハイマーが考え出した


重窒素を利用したタンパク質の追跡実験について書いた、福岡伸一さんの


著書の抜粋を紹介しました。


この内容を読んでわかるとおり、これはネズミを使った実験であり、


しかもタンパク質の測定をするには、組織を取り出さなくてはいけません。


さらに、この実験ではタンパク質が組織細胞の構成要素としてそこに


含まれているのか、私が言っている沈着タンパク質として存在している


のかを区別することはできません。


そこで考えたのがNMR(核磁気共鳴)を利用した重窒素の追跡です。


まずはNMRの説明から。



NMR(核磁気共鳴)(ウィキペディアより)


原子番号と質量数がともに偶数でない原子核は0でない核スピン量子数 I と

磁気双極子モーメントを持ち、その原子は小さな磁石と見なすことができる。

磁石に対して磁場をかけると磁石は磁場ベクトルの周りを一定の周波数で

歳差運動する。

原子核も同様に磁気双極子モーメントが歳差運動を行なう。

この原子核の磁気双極子モーメントの歳差運動の周波数はラーモア周波数

(Larmor frequency) と呼ばれる。


この原子核に対してラーモア周波数と同じ周波数で回転する回転磁場を

かけると磁場と原子核の間に共鳴が起こる。

この共鳴現象が核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、略してNMR)と

呼ばれる。

磁場中に置かれた原子核はゼーマン効果によって磁場の強度に比例する、

一定のエネルギー差を持った 2I+1 個のエネルギー状態をとる。

このエネルギー差はちょうど周波数がラーモア周波数の光子の持つ

エネルギーと一致する。

そのため、共鳴時において電磁波の吸収あるいは放出が起こり、これにより

共鳴現象を検知することができる。




何を言っているのか、さっぱりわからないという方も多いかとは思います。


私もこの説明だけではよくわかりません。


できるだけ簡単に説明すると原子番号(陽子の数)と質量数(陽子と


中性子の数を足したもの)がともに奇数の元素に、一定時間磁場を放射


して難しい計算をすると、その元素のふるまいがわかるというものです。


現在、医療現場で使用されているMRI(核磁気共鳴画像法)もこの


現象を利用しています。


具体的にいうとMRIの場合は人体内の軽水素の状態を撮影しています。


まず水素の原子番号は「1」(陽子が1つ)、そして軽水素「¹H」は


中性子を持っていないため、質量数も「1」となり、核磁気共鳴の


基本となる、原子番号も質量数もともに奇数であるという条件を


満たしています。


また、自然界に存在する水素の99.98%は軽水素ですから、ほぼ


全ての水素原子の状態を映すことができます。


また以前にも書いたように水素は、炭水化物にも、脂肪にもタンパク質


にも含まれていますから、軽水素を映せば体内のほぼ全ての組織の状態を


把握できるということになります。


このNMRという現象を水素ではなく、窒素に利用して体内のタンパク質の


行方を追跡してみよう、というのが私の考えです。


まず、窒素の原子番号は「7」、そしてシェーンハイマーが実験に用いた


重窒素の質量数は「7+8=15」となり、軽水素と同様に原子番号、


質量数ともに奇数となり、NMRの条件を満たしています。


現在は軽水素を測定するMRIしか実用化はされていませんが、重窒素を


測定するMRIの開発も現在の科学技術ならば、それほど難しいこととは


思えません。


問題は、その必要性だけではないでしょうか。


次回は具体的な実験方法について考えてみたいと思います。