結合組織内へのタンパク質蓄積を証明する方法(4)

 

それでは、前回からのつづきです。


「さらにシェーンハイマーは、投与された重窒素アミノ酸が、身体の


 タンパク質中の同一種のアミノ酸と入れ替わったのかどうかを確かめて


 みた。


 つまりロイシンはロイシンと置き換わったのかどうかを調べたのである。


 ネズミの組織のタンパク質を回収し、それを加水分解してバラバラの


 アミノ酸にする。


 そして各種アミノ酸について、重窒素が含まれているかどうかを質量


 分析計にかけて解析した。


 確かに実験後、ネズミのロイシンには重窒素が含まれていた。


 しかし、重窒素を含んでいるのはロイシンだけではなかった。


 他のアミノ酸、すなわちグリシンにもチロシンにもグルタミン酸など


 にも重窒素が含まれていた。


 体内に取り込まれたアミノ酸(この場合はロイシン)は、さらに細かく


 分断されて、あらためて再配分され各アミノ酸を再構成していたのだ。


 それがいちいちタンパク質に組み上げられる。


 つまり、絶え間なく分解されて入れ替わっているのはアミノ酸よりも


 さらに下位の分子レベルということになる。


 これはまったく驚くべきことだった。


 (中略)


 入れ替わっているのはタンパク質だけではない。


 貯蔵物と考えられていた体脂肪でさえもダイナミックな「流れ」の


 中にあった。


 体脂肪には窒素が含まれない。


 そこでシェーンハイマーは水素の同位体(重水素)を用いて

 
 脂肪の動きを調べてみた。


 シェーンハイマーは論文にこう記している。




  (エネルギーが必要な場合)摂取された脂肪のほとんど全ては


   燃焼され、ごくわずかだけが体内に蓄えられる、と我々は


   予想した。ところが非常に驚くべきことに、動物は体重が減少


   しているときでさえ、消化・吸収された脂肪の大部分を体内に


   蓄積したのである。




 これまでは、脂肪組織は余分のエネルギーを貯蔵する倉庫であると


 考えられていた。


 大量の仕入れがあったときにはそこに蓄え、不足すれば搬出する、と。


 同位体実験の結果は全く違っていた。


 貯蔵庫の外で、需要と供給のバランスがとれているときでも、内部の


 在庫は運び出され、一方で新しい品物を運び入れる。


 脂肪組織は驚くべき速さで、その中身を入れ替えながら、見かけ上、ためて


 いる風をよそおっているのだ。


 全ての原子は生命体の中を流れ、通りぬけているのである。


 (中略)


 私たちが仮に断食をおこなった場合、外部からの「入り」がなくなる


 ものの内部からの「出」は継続される。


 身体はできるだけその損失を食い止めようとするが「流れ」の掟に背く


 ことはできない。


 私たちの体タンパク質は徐々に失われていってしまう。


 したがって飢餓による生命の危険は、エネルギー不足のファクター


 よりもタンパク質欠乏によるファクターの方が大きいのである。


 エネルギーは体脂肪として蓄積でき、ある程度の飢餓に備えうるが、


 タンパク質はためることができない


 シェーンハイマーは、この自らの実験結果をもとにこれを


 「身体構成成分の動的な状態(The dynamic state of body constituents


 と呼んだ。


 彼はこう述べている。



  生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も


  低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的


  変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。



 新しい生命観誕生の瞬間だった。」




以上で、福岡伸一さんの「生物と無生物のあいだ」からの抜粋を終わります。


このブログで私がおこなっていることは、今をときめく分子生物学者の


福岡伸一さんをはじめとして、すべての生理学者が常識だと考えている、


上記の太線で示した部分、「タンパク質はためることができない」


真っ向から、対立する説を証明しようというものです。


以前に断食の目的は、私の中では体内の結合組織内に蓄積したタンパク質の


除去であると書いたことがありますが、この考えは現在も変わっていません。


そして、この蓄積タンパク質がほぼ全ての病気の原因、究極的には「死」の


原因と言っても過言ではないと私は考えています。


タンパク質の場合は「ためる」というよりは、「たまってしまう」という表現の


ほうが的確だとは思いますが。


また上記の脂肪に関する記述では、現在痩せると謳っているダイエット食品や


サプリメントなどの説明がいかに嘘であふれているかがよくわかると思います。


次回は、NMR(核磁気共鳴)の説明などを中心に書いていきたいと


思います。