結合組織内へのタンパク質蓄積を証明する方法(3)
今回はルドルフ・シェーンハイマーがおこなった、体内での重窒素の
追跡実験について書きます。
福岡伸一さんの「生物と無生物のあいだ」という本にシェーンハイマーの
実験を書いた部分がありますので、そこから必要なところを抜き出して
転載させていただきます。
「普通の餌で育てられた実験ネズミに、ある一定の短い時間だけ重窒素で
標識されたロイシンというアミノ酸を含む餌が与えられた。
このあとネズミは殺され、すべての臓器と組織について重窒素の行方が
調べられた。
他方、ネズミの排泄物も全て回収され、追跡子(重窒素)の収支が算出
された。
ここで使用されたネズミは成熟したおとなのネズミだった。
これには、わけがある。
もし成長の途上にある若いネズミならば、摂取したアミノ酸は当然、
体の一部に組み込まれるだろう。
しかし成熟ネズミならもうそれ以上大きくなる必要はない。
事実、成熟ネズミの体重はほとんど変化がない。
ネズミは必要なだけ餌を食べ、その餌は生命維持のためのエネルギー源
となって燃やされる。
だから摂取した重窒素アミノ酸もすぐに燃やされてしまうだろう。
当初、こうシェーンハイマーは予想した。
当時の生物学の考え方もそうだった。
アミノ酸の燃えかすに含まれる重窒素はすべて尿中に出現するはずである。
しかし実験結果は彼の予想を鮮やかに裏切っていた。
重窒素で標識されたアミノ酸は3日間与えられた。
この間、尿中に排泄されたのは投与量の27.4%、約3分の1弱だけ
だった。
糞中に排泄されたのは、わずかに2.2%だから、ほとんどのアミノ酸は
ネズミの体内のどこかにとどまったことになる。
では、残りの重窒素は一体どこへ行ったのか。
答えはタンパク質だった。
与えられた重窒素のうち、なんと半分以上の56.5%が身体を構成する
タンパク質の中に取り込まれていた。
しかも、その取り込み場所を探ると身体のありとあらゆる部位に分散されて
いたのである。
特に取り込み率が高いのは腸壁、腎臓、脾臓、肝臓などの臓器、血清(血液
中のタンパク質)であった。
当時、最も消耗しやすいと考えられていた筋肉タンパク質への窒素取り込率は
はるかに低いことがわかった。
実験期間中、ネズミの体重は変化していない。
これは一体どのようなことを意味するのだろうか。
タンパク質はアミノ酸が数珠玉のように連結してできた生体高分子であり、
酵素やホルモンとして働き、あるいは細胞の運動や形を支える最も重要な
物質である。
そしてひとつのタンパク質を合成するためには、いちいち一からアミノ酸を
つなぎ合わせなければならない。
つまり、重窒素を含むアミノ酸が外界からネズミの体内に取り込まれて、
それがタンパク質の中に組み込まれるということは、もともと存在していた
タンパク質の一部分に重窒素アミノ酸が挿入される---ちょうど
ネックレスの一箇所を開いてそこに新しい玉をひとつ挟み込むように---、
というふうにはならない。
そうではなく、重窒素アミノ酸を与えると瞬く間にそれを含むタンパク質が
ネズミのあらゆる組織に現れるということは、恐ろしく速い速度で、多数の
アミノ酸が一から紡ぎ合わされて新たにタンパク質が組み上げられていると
いうことである。
さらに重要なことがある。
ネズミの体重が増加していないということは新たに作り出されたタンパク質
と同じ量のタンパク質が恐ろしく速い速度で、バラバラのアミノ酸に分解され
そして体外に捨て去られているということを意味する。
つまり、ネズミを構成していた身体のタンパク質は、たった三日間のうちに
食事由来のアミノ酸の約半数によってがらりと置き換えられたということ
である。
もし重窒素アミノ酸を三日間与えた後、今度は普通のアミノ酸からなる
餌でネズミを飼い続ければ、一度は身体のタンパク質の一部となった重窒素
アミノ酸がほどなくネズミの体を脱して体外に捨て去られてゆく様子が
観察されることになる。」
かなり、長くなってしまいましたので今回はここまでにしておきます。
アミノ酸からタンパク質への合成に関しては、かなり以前に「アミノ酸、
ポリペプチド、タンパク質」という題で記事を書いていますので、
そちらを読むと、より理解が深まるかと思います。
福岡さんが書いたシェーンハイマーの実験に関する部分には私の仮説に
関わりがある部分がまだありますので、次回もこの続きを載せたいと
思います。